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札幌高等裁判所 昭和50年(ラ)57号 決定

抗告人

苫小牧信用金庫

右代表者

渡辺三郎

右代理人

岩谷武夫

主文

原決定を取り消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二よつて審案するに、

(一)  抗告人の抗告理由第一点は、本件競売の目的物件である別紙目録(一)記載の土地(以下、(一)の土地という。)、同(二)記載の土地(以下、(二)の土地という。)、同(三)記載の建物(以下(三)の建物という。)のうち、右(二)の土地及び(三)の建物は一括して競売すべきであるのに、これを個別に競売したものとして、原決定には競売法第三二条二項によつて競売手続に準用される民事訴訟法第六七二条三号のいわゆる法律上の売却条件に牴触した違法がある旨の主張をするもののようであるので、まず、この点について検討する。

(二)  本件記録によれば、抗告人は大沢杉三の所有にかかる(一)及び(二)の各土地並びに株式会社三和組(その代表者代表取締役は右大沢杉三)の所有にかかる(三)の建物につき、いずれも札幌法務局昭和四八年一一月一四日受付第五四九八三号をもつて設定登記のなされた根抵当権の設定を受けていたところ、債務者である右三和組に対する、右根抵当権による被担保債権としての手形貸付金債権及び割引手形金債権合計一三七三万五八六一円の弁済に充てるため右根抵当権の実行として昭和五〇年六月一八日札幌地方裁判所に競売の申立てをなしたこと、同裁判所は翌一九日これら不動産につき競売開始決定をなし、不動産鑑定士小川潤二郎に右不動産の評価をさせたところ、同鑑定人から(一)の土地につき一五七二万円、(二)の土地につき五九四万円、(三)の建物につき一六五万円とそれぞれ評価した旨記載のある評価書が提出されたこと、同裁判所はこれに基づいて最低競売価額を右評価額どおり定め、入札手続を進めたところ、同年一〇月九日午前一〇時の入札期日において大圭産業株式会社が(三)の建物についてのみ最低競売価額と同額である一六五万円の入札をなし、(一)、(二)の土地については入札申出人がなかつたため結局同裁判所は右建物につき同月一四日午前一〇時の競落期日に(利害関係人不出頭)右入札人に対し競落を許可する旨の決定(本件競落許可決定)を言渡したことが明らかである。ところで右評価書によれば、(一)の土地は実測面積424.80平方メートルで、市道北二四条通に北西面して間口約17.96メートル、奥行約23.63メートルの整形地であり、(二)の土地は実測面積424.38平方メートルで右市道からみて右(一)の土地の裏側に隣接し、その南東部分が巾員約一一メートルの砂利道に面している間口約17.94メートル、奥行約23.63メートルの整形地であること、(二)の土地上には前掲三和組の所有にかかる床面積実測48.85平方メートルである(三)の建物及び同じく三和組所有の未登記建物と思料される木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建作業場が存在し、全地を利用していること、右(三)の建物は昭和三六年に建築された木造平家建住宅であり既に可成り損耗し、今後の経済的残存耐用年数は七〜八年程度と思われるものであり、(二)の土地のうち約一〇〇平方メートルをその敷地として使用し、現在右三和組の元社員であつた外川長正がその家族とともに昭和四八年五月頃から家賃等の支払はせずに入居使用しているものであること、札幌市西区役所における昭和五〇年度の固定資産評価額は(一)の土地が三二二万八四〇〇円、(二)の土地が二九二万八〇〇〇円(これが(一)の土地の前記評価額の九割を超えることは計数上明らかである)、(三)の建物が二四万九八〇〇円であること(右価額は右建物が前記のように既に可成り損耗し、今後の経済済的残耐用年数が七〜八年ということからほぼ時価に近いものとみてよいであろう)、(三)の建物の一六五万円という前記評価額は積算価格を標準として借地権等を考慮し(右評価額中に含まれている借地権等の価額は、右のような関係からすると大体一四〇万円前後と推認される。)、(一)の土地は更地、(二)の土地は底地として評価したものであることがそれぞれ認められる。

(三)  抵当権の目的である数個の不動産につき競売法による競売の申立てがあつた場合に、これを個別に競売するかそれとも一個の競売で一括して競売(いわゆる一括競売)するかとか、個別に競売するとして、競売法による競売手続に準用される民事訴訟法第六六二条の二の一項を適用して同一に該数個の不動産を競売すべき旨の特別売却条件を付して競売(いわゆる抱き合わせ競売)するかとかは、後示のような特段の事情が認められないかぎりは、競売裁判所の事案に応じた自由な裁量に任されているところであつて(もつとも競売法による競売手続においても民事訴訟法第六七五条二項の準用により過剰競売を許すべきでないことからすれば、右のような特別売却条件を付さない個別競売をもつて本則とするというべきであろう。)、一括競売を相当とするときは個別競売に付したとしても、或いは前示のような特別売却条件を付して個別競売をするのを相当とするときにそれをしなかつたとしても、競売法第三二条によつて準用される民事訴訟法第六七二条三号にいう法律上の特別売却条件に牴触したことになるものではない。

しかしながら、抵当権の実行による不動産競売制度は本来抵当債権満足のための手段であり、裁判所の関与の下に抵当不動産を競売し、その売得金によりその不動産についての競売法第二七条四項所定の利害関係人の権利に満足を与えることを目的とするものであるから、競売裁判所としては、競売手続の迅速を害することなく、抵当不動産を出来るだけ高価に売却するよう配慮することが望ましいことは当然であり、従つて数個の不動産を競売に付する場合に、それら不動産を同一に競落させるような処置を執ることにより、これをしない場合に較べて利害関係人のなに人にも不利益とならないような形で当該不動産全体としての競落価額を著しく高めることができ、若し、右処置を執らない場合は各個の該不動産の全部又は一部の競落価額が著しく下落すると思われる特段の事情のあることが明白な場合は、過剰競売となる虞れがなく、競売手続に支障を来たす虞れもないかぎり、職権によつて、適宜、該数個の不動産を一個の競売で一括して競売に付することにしたり、若しくは競売法による競売手続に準用される民事訴訟法第六六二条の二の一項を適用して、該数個の不動産を同一人が競買すべき旨の特別の売却条件を付して個別競売に付したりすべき責務を負うものと解するを相当とする。

(四)  以上述べたような見地に立つて本件をみるに、(二)の土地と(三)の建物とは所有者を異にするから、これらを一個の競売で一括して競売に付するのは、若しそうすると競売売得金の配当に支障を来たす虞があり(本件記録中の右土地、建物についての登記簿謄本の記載参照)、また右土地による物上保証人たる大沢杉三が後日債務者たる株式会社三和組に対して行使し得べき求償権の額を不明ならしめる虞れもあるので適当でないが、(三)の建物は(二)の土地の上に存するのであるから、右両物件を同一人に競落させるように特別の売却条件を定めて競売に付することにすれば、(二)の土地の借地権は競落人のもとで混同によつて消滅するし、また右建物に入居している前記外川は、これを無償で借りている者であり、また(二)の土地上に存する前記作業場はそれが未登記建物だとすれば、(二)の土地の借地権者は(二)の土地の競落人に対してその借地権を対抗することはできないし、それに、右作業場には人は居住していないのであるから、(二)の土地の評価額は借地権の存しない更地としての価額に近い価額から、(三)の建物の評価額のうち、この中に借地権等価額から取り込まれるべき金額相当分を控除した残額相当額になるものというべきであり、従つてこれをもつて(二)の土地の評価額とすることができるものと考えられるのであるが、その場合、(二)の土地の更地としての価額は、その固定資産税評価額が前叙のとおり(一)の土地の九割を超えるものであることからみて、(一)の土地の更地としての前記評価額一五七二万二〇〇〇円の九割にあたる額――これが一四二五万七二六六円になることは計数上明らかである――には達するものと推認されるし、他方、(三)の建物の評価額中(二)の土地の借地権等価額からこれに取込まれるべき部分は、右建物の前記一六五万円という評価額において借地権価額等からこれに取込まれている分が大体一四〇万円前後とされていることからみて、これとほぼ同程度とみるほかなく、(三)の建物から前記外川を退去させ、また前記作業場所有者にその収去をさせるのに多少の手間と費用がかかるとしても、事実関係が前認定のとおりである本件の場合にあつては、(二)の土地の評価額は、右に述べたような方法で評価して本件競売手続における(二)の土地の前記評価額五九四万円の倍額近くにゆうに達し、それと(二)の建物の評価額との合計額も、前記のような特別売却条件なしで個別競売されることを前提としてなされた(二)の土地と(三)の建物の前記各評価額の合計額よりもはるかに多くなるものと認められる(一筆の土地と該土地の借地権に基づき当該土地上に存する一棟の建物が共に競売に付される場合、土地、建物ともに適正に評価されておれば、個別競売にしようが、いわゆる抱き合競売にしようが、評価額の合計額が相異する筈はないのに右のように抱き合わせ競売をすることにより(二)の土地と(三)の建物の各評価額の合計額が特別売却条件なしの個別競売を前提としてなされた右土地、建物の各評価額の合計額よりもはるかに大きくなると思われるのは、特別売却条件なしの個別競売を前提として、なされた右土地、建物の各評価額の算出過程に重大な誤りがあつたためではないかと推測される。(二)の土地の借地権評価額中、(三)の建物評価額中に吸収させたのが(三)の建物の敷地相当分だけで、競売対象になつていない前記作業場の敷地分はこれに吸収させずに、しかも(二)の土地の評価額の決定にあたつては(二)の土地全部の借地権を控除して底地価額を算出し、これを評価額としたことが推測される誤りである。しかし本件において当裁判所としては、(二)の土地と(三)の建物の特別売却条件なしの個別競売を前提としてなされたその評価額がそれぞれ前記のようなものであつたことを一応前提としなければならず、従つて前記(三)の建物の評価額は、(二)の土地の借地権価額をを全部吸収しているもの、(二)の土地の評価額は、右借地権評価額を控除したことのみによるものと前提して考えざるを得ない。それゆえに本件において若し抱き合わせ競売をすれば、(二)の土地の評価額ないしこれと(三)の建物評価額の合計額が、単なる個別競売をした場合のそれに較べて非常に高くなるといえるのは、本件における前記のような特殊な事情によるものと認められる。)。

そうだとすると本件競売手続における(二)の土地の前記評価額にしてその最低競売価額である前記五九四万円は、前叙のような特別売却条件を定めて(二)の土地と(三)の建物を個別競売に付した場合における(二)の土地の評価額に比較して著しく低廉なことは明白であるといわなければならない。しかも(二)の土地と(三)の建物を個別に競売に付して、本件の場合のように、(三)の建物のみがさきに競落されてしまうと、右建物の競落人は、たとえ(二)の土地の所有者ないしその競落人から(二)の土地の借地権の譲受についての承諾を得られないとしても、借地法第九条の三により裁判所から右承諾に代わる許可の裁判を得て借地権を確保する途もないではないため、今後の(二)の土地の競売は、前叙の金五九四万円という最低競売価額をもつてしてもなお困難となることはゆうに予想されるところであり、このことは当裁判所に顕著である。しかして(二)で判示したところによれば、本件の場合、特別売却条件を前叙のように定めても、競買人を見出すことが困難となつたり、競売手続がさほどに遅滞したりするものとは考えられず、また過剰競売となる虞れもないものと認められる。

そうだとすると、本件においては、競売裁判、所としては職権によつて、競売法による競売手続に準用される民事訴訟法第六六二条の二の一項を適用して、(二)の土地と(三)の建物とは同一人が競買しなければならない旨の特別売却条件を定めてこれを個別に競売すべき特段の事情があつたものというべきであり、従つて右特別売却条件を定めずに(二)の土地と(三)の建物を個別に競売に付したのは、ひつきよう定むべき特別売却条件を定めずに競売したことに帰する。しかして右は法律上の売却条件に牴触して競買をなした場合に文字どおりにあたるわけではないが、関係法条の法意に照らせば、右の場合に準ずるものと解するを相当とするから、右競売は競売法第三二条、民事訴訟法第六七二条三号前段の場合に該当し、且つ抗告人は本件即時抗告の申立をして前叙の如く主張することにより本件競売手続の続行に付いて承認しない旨を表明したものと認め得るから、競売法第三三条、民事訴訟法第六八二条三項、第六七四条二項に則つて、(三)の建物の競落はこれを許すべからざるものとするのが相当である。

三よつて、本件抗告はこの点において理由があるから原決定を取り消し、本件競落はこれを許さないものとし、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 長西英三 山崎末記)

抗告の趣旨

原決定を取消し更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

一、本件物件は、個別競売によるべきでなく一括競売すべきものである。

即ち、抗告人が抵当権を設定した不動産の内、札幌市西区八軒七条東五丁目七六五番壱四宅地424.38平方米ならびに同所同番地の家屋番号七六五番壱四の不動産は、位置・形状・構造・機能等の諸点から客観的・経済的に観察すると、個別に競売するときは一括して競売する場合に比し甚しく価額の低落を来たすもので、抵当権者ならびに債務者、所有者等の利害関係人に著大な損害を及ぼすことが明白である。

競売最低価額からみても債権額を満足し得ない現況であり、競売制度が抵当権の満足のため公正にしてなるべく高価に抵当不動産を売却することを目的とするならば不動産の利用価値、経済価値を高める一括競売によることが最も妥当である。

二、最低競売価格の不当性

今回競落になつた建物の最低競売価格は、金百六拾五万円と評価され、これを基に競売手続が進められ、今回の競落許可決定をみたのであるが右最低価格は、取引の実例に即しない不当なものである。

即ち右最低価格は土地賃借権をある程度考慮して決定されているようであるが、賃借権の割合をどうみているのか全く不明であると共にその基礎となる土地の更地価格の評価が不当に低廉である。

隣接する土地の評価が金千五百七拾弐万円となつている点から考慮するとき本件建物の敷地の更地価格はゆうに金壱千万円を超えている。(本件建物の敷地は袋地ではなく市道に面している。)而して賃借権の割合を五割とみると本件建物の価格は五百万円を下ることはありえないはずである。

三、よつて本抗告におよぶ。

物件目録《省略》

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